イ・ギホ『舎弟たちの世界史』読了。

新泉社の韓国文学セレクションから、『目の眩んだ者たちの国家』、『イスラーム精肉店』、『さすらう地』、『天使たちの都市』、『きみは知らない』に続いて6冊目です。

本書紹介ページから、以下引用。

1980年に全斗煥が大統領に就任すると、大々的なアカ狩りが開始され、でっち上げによる逮捕も数多く発生した。
そんな時代のなか、身に覚えのない国家保安法がらみの事件に巻き込まれたタクシー運転手ナ・ボンマンは、政治犯に仕立て上げられてしまい、小さな夢も人生もめちゃくちゃになっていく。
軍事政権下における「国家と個人」「罪と罰」という重たいテーマを扱いつつも、スピード感ある絶妙な語り口、人間に対する深い洞察、魅力的なキャラクター設定で、不条理な時代に翻弄される平凡な一市民の人生を描いた悲喜劇的な秀作。

全斗煥将軍を頂点とする独裁社会で、舎弟マインド&権力欲オンリーな組織の「無理ばかりで道理はもうない」暴走に巻き込まれる、無実の市民の悲惨さが無茶苦茶カラッとした語り口で描かれる本作。

映画『1987、ある闘いの真実』の冒頭で、取り調べという名の拷問で大学生が死ぬシーンを思い出しました。

(映画の中でも警察が大学生の死因について聞かれて、「捜査員が机を叩いたら死んでしまった」と答えるシーンがあって唖然としたけど、本書を読むとその「唖然…」が通ってしまう世界に納得。)

戦前戦中の日本による植民地支配時代、戦後の朝鮮戦争から休戦後の軍事政権…は過酷だ…。

日本も戦前戦中の特高とかあるけれど(そういえば私は特高については、子どもの頃に読んだ手塚治虫『アドルフに告ぐ』ぐらいでしか触れたことがないかも)、戦後に国民が血を流すことなく、アメリカ主導でポロッと民主主義を与えられてなんという幸運だったのか。

(もちろん日本だって国家が銃を向けないだけで、公害や差別等、国家や企業、市民が加担する暴力で虐げられる人たちは昔も今もいるけれど。)

あと本書を読むと、先日ニュースになっていた全斗煥元大統領の27歳になる孫チョン・ウウォン氏の謝罪は立派な行為だと思うし、未来を感じさせるものだなとも思う。

その一族の者として生まれてしまったために、あまりにも重い罪を背負わざるを得ない(彼以外の一族は目を背けて生きているにもかかわらず)彼の歩む道は、これからどんなものになるのだろうか。

逆に同じようなことは日本でも起こりうるのだろうか。とか、舎弟マインド&権力欲オンリーな組織って日本でも全然当てはまる人たちはいそうだな。とか、

いろいろ逆照射してしまいますよね。

(編)

 

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