キム・スム『さすらう地』読了。

新泉社の韓国文学セレクションからの一冊です。

1937年に朝鮮半島出身者が中央アジアに強制移住させられた、という史実はどこかで目にした記憶があるのだけど、「強制移住」というただ4文字の単語として自分の頭にあったものが、

20万もの生きた人間が動物のように窓も何もない貨車に詰め込まれ、何週間も「モノ」のように運ばれ、突如荒野に放り出されるという

信じがたい出来事として、

その一人一人のそれまでの人生や将来に思い描いていたことも伴って立ち現れる、半ば呆然とする読書体験でした…。

そして、姜信子さんによる解説にある

もっともらしい理念を掲げて、土地のことも農業のことも命のことも知らない者たちが立案した机上の計画と数字がもたらした厄災

という一節に震えた…。同じような厄災が現在進行形で起きているし、日本だって社会構造の至るところに上記に端を発する歪みができている。

解説では1932〜33年のウクライナの大飢饉のことにも触れられていて、そこで紹介されていたワシーリー・グロスマン『万物は流転する』も読んでみたい。

カザフスタンには1944年までに17の少数民族が追放されてきたそうで、1875年に対雁に強制移住させられた樺太アイヌのことを思いました。

同じく解説から鋭い一節を。

真ん中から遠いほど、多数者の想像力から遠く離れるほど、人間は容易にモノになり、数字になり、敵となる。敵が多くなるほど、真ん中に立つ者たちがどんどん強大になってゆく。

このあとに「主義とか体制とか時代とかを超越したこの世界の真理ですね」と続くのだけど、辛い真理だな…

話変わり、

本書の中に収められた数多くのささやきの中で、とりわけ農民の「タネ」に対する思いには、自分にはちょっと窺い知れないくらいの深い世界を感じました。

目が見えなくなったおばあちゃんが、畑から帰ってきた息子の手についた土の匂いから、いろんなものの存在を感じとったという話とか。

土地と人間、土と人間の関係も、深遠だなあ。

キム・スム…!『ひとり』や『Lの運動靴』も読みたい…!

(編)

 

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