『目の眩んだ者たちの国家』読了。
以下、上のリンク先から出版社からのコメントを引用します。
2014年4月16日に起きたセウォル号事件。修学旅行の高校生をはじめ、助けられたはずの多くの命が置き去りにされ、失われていく光景は韓国社会に強烈な衝撃を与えました。
私たちの社会は何を間違えてこのような事態を引き起こしたのか。本書は、セウォル号事件で露わになった「社会の傾き」を前に、現代韓国を代表する小説家、詩人、思想家ら12人が思索を重ね、言葉を紡ぎ出した思想・評論エッセイ集です。
ハンギョレ新聞でセウォル号関連の記事をチェックしてみると、セウォル号沈没「事件」は、「現在も沈没原因は「公式」には確定できておらず、救助に失敗し、超大規模の惨事へとつながった過程や、朴槿恵政権による隠蔽と調査妨害疑惑に対する検察の特別捜査団の捜査も遅々として進んでいない」そうで。
「その場から絶対に動かずに待機してください」という船内放送を流し、子どもたちを船内に残したままさっさと逃げた船長は定年を過ぎた契約社員、一等航海士と操機長は出航前日に入社した新人、営利を優先し安全性を無視した船体、船内に取り残された乗客(多くは高校生)を全く助けようとしなかった海洋警察(と国家の機能不全)…
と、
読んでいてにわかに信じがたい出来事で、本書に寄稿している書き手の言葉もとんでもなく重く、毎晩少しずつ読み進めた次第。
ちなみに、上でセウォル号沈没「事件」と書いたのは、本書の題にもなっているパク・ミンギュの「目の眩んだ者たちの国家」という寄稿の中で、
セウォル号は、
船が沈没した「事故」であり
国家が国民を救助しなかった「事件」なのだ。
と書かれていたから。
日本は…災害や惨事の際、初動が遅れることはあったとしても、懸命に救助に当たってくれる人たちがいて、それは社会に対する根本的な信頼と結びついている。と思いながら読み進めたけれど、
「無能」と言われるレベルのコロナ対応にもかかわらず、五輪を強行しようとする政府を通して透けて見えるような「(一部の人たちにとっての)利益重視・国民の命や生活軽視」の姿勢だったり、
国の不正のために末端の職員が自殺に追い込まれたにもかかわらず、真相究明が進まないこと(赤木ファイルを全部見せて、再調査をして、膿を全部出し切ってくれ〜)とか、
このまま押し通されることを見過ごしたら、ものすごく何かが損なわれるような気がする上の二つって、やっぱりセウォル号的なことへ連なっている気が…。
そういう意味でも
ファン・ジョンウン「かろうじて、人間」には心打たれました。
事件以来、世の中がすっかり壊れてしまったと口癖のように言いながら、自分の無力ゆえに全てを諦め、あらゆることを嫌悪しながら過ごしてきた彼女が、「それもやはり、当事者ではない者の余裕なのだ」と気づく一節。
遺族たちの日常、毎日襲ってくる苦痛の中で何度も反芻する決心、そして断食、行進、その悲痛な闘いに比べて、世の中がもう滅びてしまったと言うことが、何かを信じることがもはやできなくなったと言うことが、どれほど簡単なことか。
いやー、この言葉…涙!!本当にそうだ…。
この後に2ページほど続いて彼女の文章は終わるのですが、もうもう、読みながら映像が立ち上がって、その光景に心が震えるような…ファン・ジョンウン!1976年生まれ!同じ学年!
彼女の他に邦訳されている著書の中で、一番新しいのは昨年に出た『ディディの傘』かな?これも読んでみたい。
ちょっと話がずれましたが、
『目の眩んだ者たちの国家』、これを翻訳出版してくれてありがとうございます。新泉社!
ハン・ガン『少年が来る』に続いて、またすごい読書体験で、韓国文学やばいな。
セウォル号のことを扱った作品としては、あとは映画『君の誕生日』も見てみたい。
韓国では今年4月に『あなたの4月』というドキュメンタリーも公開されたそうで、これはどんな内容なのかなー。
ドキュメンタリーといえば、2020年のアカデミー賞で短編ドキュメンタリー部門にノミネートされたイ・スンジュン監督による『不在の記憶』は、事故当時の現場映像と通信記録によって構成された作品とのことで、後ほどこれも見てみようと思いつつ。
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