永野三智『みな、やっとの思いで坂をのぼる 水俣病患者相談のいま』、読了。
上記リンクの出版元のサイトから、以下引用。
不知火海を見下ろす丘の上に水俣病センター相思社はある。
2004年の水俣病関西訴訟の勝訴にともない、「自分も水俣病ではないか」との不安を抱える数千の人たちが、いまも患者相談に訪れる。
著者は、相思社での患者相談などを担当する日常のなかで、自分の生まれ故郷でいまもタブーとされる水俣病事件の当事者たちと接するようになり、機関紙で「水俣病のいま」を伝えるための連載「患者相談雑感」を開始した。
本書は、本連載をもとに大幅に加筆して一冊にまとめた記録だ。
「やっとの思いで語り出した人びとの声」がここにある。
私にとって「教科書以外の」水俣病との再会は、2012年のTGRでの座・れら『不知火の燃ゆ』。そして、2014年に札幌演劇シーズンで本作が再演されたとき。
そして、2017年に国立歴史民俗博物館で開催された企画展『1968年』。
特に『1968年』で見た、「昭和43年から始まった水俣病患者互助会と新日本窒素肥料(チッソ)水俣工場との補償交渉で、患者側の補償金要求に対しチッソ側からゼロ回答を示されたときに、死に瀕している患者たちの吐いた言葉」として紹介されていた
「銭は1銭もいらん。そのかわり、会社のえらか衆の、上から順々に、水銀母液ば飲んでもらおう。上から順々に、42人死んでもらう。奥さんがたにも飲んでもらう。胎児性の生まれるように。そのあと順々に69人、水俣病になってもらう。あと100人ぐらい潜在患者になってもらう。それでよか」
が強烈で、いつか『苦海浄土』も読まなければ…と思いつつ、なかなかそのタイミングを逃していたところにパッと目に入ってきたのが本書『みな、やっとの思いで坂をのぼる 水俣病患者相談のいま』で。
本書を読んで、今まで私は水俣病事件のことを「過去に起こった出来事」として捉えていたことに気づいた次第。
水俣市に一般財団法人水俣病センター相思社というところがあり、そこが開設している患者相談窓口には、「今までずっと打ち明けることができなかった」という人たちからの電話や訪問が日々あるそうです。
水俣病事件は今も続いていることであり、水俣病とわからず「原因不明の」重い症状に長年苦しんでいる人や、認定申請を棄却された人、今も根深い差別など、心のうちに複雑な思いを抱えながら、決して治らない病である水俣病に侵された身体で日常を送る人たちが全国にたくさんいるのだ
という事実に、ガツンと頭を殴られたような感覚を覚えました。
ちなみに「水俣病事件」、
水俣病事件は犯罪です。水銀を流した行為そのものと、その後の放置が犯罪なのです。
という一節があって、『目の眩んだ者たちの国家』で書かれていたセウォル号「事件」のことを思い。あの本を読んだときは、ブログに「日本は…災害や惨事の際、初動が遅れることはあったとしても、懸命に救助に当たってくれる人たちがいて、それは社会に対する根本的な信頼と結びついている。」と書いたけど、
公害に関しては、決してそうではなかったなあ。
国家としての戦略に企業も絡んで邁進しているとき、国民の犠牲は決して彼らの足枷にはならない、ことはこの先もずっとそうなのだろうか。(原発やオリンピックのことが頭に浮かんでしまう)
あと39年かけて母親の水俣病認定申請の棄却処分の取り消しを求め、最終的に行政に対する訴訟を起こして勝訴し、やっと通知を受け取った方が「チッソよりも、私は熊本県を恨んどります」と語ったことや、判決後の会見で知事が言ったという「人はシステムの中でしか生きられない」という言葉。
「なぜ苦しんでいる人たちが救済を得られないのか?」と疑問に思わずにいられない行政や医療機関の対応は、個々人の道徳的な問題ではなく、そうせざるを得ないシステムの問題なのだろうか。
と考えると、今私はどんなシステムの中に生きているのだろうか。
今の心身や経済的な状態から何か一つ失われたら、途端に立ちいかなくなるようなシステムのような気がしてならない…。今自分がたまたまそうでないだけで、現状立ちいかなくなっている人はいるのだから、システムは変わっていってほしい。
助ける側としては、素直に手を差し伸べられる(それができないシステムとは無縁な)環境ではある。だいたいが本当に少額だけれども寄付とか、そういう感じにはなっているのですけども。
システムかあ。
そう考えると、誰を選挙で選ぶかとか、人間力や能力のある人がきちんと政治の道を選べるような環境であるかとか、そういうことがすごく大事だなあ。
どんな人が自分たちの街を治めているのか、ということも大事だなあ。
とりあえず2015年の札幌市長選では、現在の秋元氏が選ばれてよかった。
というのをこのブログの最後にするのもアレですが、この辺で。
『苦海浄土』も読むぞーと思いつつ、続いての一冊はマイケル・サンデル氏のこれ。
菅さんもこの本を読んでくれー
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