昨日はまず、応用美術館で展示されているBoogaerdt/VanderSchoot(BVDS)によるインスタレーション『Echo’s Chamber』の中で「Sound Bath Ceremony」を体験。
最初に5体の精霊が召喚されると、参加者は皆こんな感じのアイマスクをつけて横たわり
BDVS新作・世界初演「Echo’s Chamber」。
誰もみたことのないような世界の扉が開かれる予感しかない、儀式的・瞑想的なパフォーマンスになりそう。このアイマスクは参加者全員が装着するらしい!? https://t.co/i2yrW7f0lc
美術館の入館チケットとは別にパフォーマンスのチケット予約が必要です! pic.twitter.com/iM2C387sQ1— 相馬千秋 (@somachiaki) June 23, 2023
あとはもう、ゴング、ドラム、チャイム等が奏でられる音や、雨音のような何かが跳ねる音、気配、香り、顔の横を通り過ぎるものが起こす空気の振動…などに身を委ねるのみ。
先日観たコレクティヴ・カラバの世界や、隣の美術館でやってるアブラモヴィッチのドキュメンタリーに出てきたヒーリングの儀式とリンクするような雰囲気で、無意識(寝落ち)と意識の間を彷徨いました。不思議な時間だった…。
夜ご飯は、現代美術館近くのKUKU KANEでポケ丼(ベジバージョン)。
ベトナムの料理かと思ったらハワイのローカルフードとな。とてもおいしくて、帰国したら再現してみたい。酢飯の上に野菜やアボカド、マンゴー、油揚げ、カシューナッツ等をピリ辛マヨネーズであえたのがのっかってる感じ。
しっかり腹ごしらえをして、19時半からはフランクフルト劇場でポルトガルからのティアゴ・ロドリゲス『Catarina and the beauty of killing fascists(カタリーナ、ファシスト殺しの美)』。
舞台上の家族が昔の農民的な服装をしているから(でもスマホ等いろいろ現代的なものも出てくるので)時代設定がよくわからなかったのだけど、2028年という設定なのかー。
年に一度ファシストを殺害するために家族全員が集まるという伝統を持つ一家の話で、この伝統はカタリーナ・エウフェミア(※)という26歳の女性が1954年5月、農場労働者による賃金引き上げを求めるストに参加したときに警護官に射殺され、その警護官の妻が子どもの前で警護官(ファシスト)を射殺したことに始まったもので、この家族はそれぞれが「カタリーナ」と呼ばれ、26歳になると最初のファシスト(女性に対する暴力や死に直接的・間接的に関わった者が選ばれる)を殺す、という設定。
※カタリーナ・エウフェミアは実在した女性で、この事件以降アンチ・ファシスト、フェミニズムの象徴となっているそうです。
で、その年は最年少のカタリーナ(末娘)が最初のファシストを殺害する年で、すでにファシストは捕らえられており、あとは引き金を引くだけ。という状態なのですが、ここでカタリーナが相手を殺すことに疑問を抱き、拒否するわけです。
失望する母親に「これまでに何人殺したの?」「それで世界は変わった?」と問うカタリーナ。
共同体として伝統を維持することの重要性と、暴力という伝統を継続させることへの疑問。
暴力の否定という正義と、言論の自由という権利に守られたファシストが撒き散らす言説に影響を受けた者によって、女性が犠牲になる現実。
カタリーナと母親の意見が真っ向からぶつかるシーンは圧巻で、自分は民主主義的価値観の中に生きているから民主主義的な解決策をさぐるカタリーナの考え方は馴染み深いものだけど、(生贄を大地に戻す儀式という形を取りながらの)暴力の必要性を説く母親の意見にも正直、肯けてしまうところがある。
最終的に意外な展開が起こって、捕らえられたファシストは死なずに済むのですが、ここから彼の大演説が始まるのですね。
2時間が経過してからのべらぼうな演説シーンなので、字幕を追うのに若干疲れてしまって正確に全てを拾えたわけではないのだけど、まあ、「キリスト教における伝統的な家族観、性役割」とか、性的少数者や移民などマイノリティを敵視して「ここは俺らの国だ」的な言説で
2020年に創作された本作は、欧州各地で台頭する極右政治家たちの演説や、歴史上のファシストたちの演説をもとに書かれている。
その内容があまりのことで観客は大ブーイングからの、演劇そのものには拍手喝采。両極に引き裂かれる体験はあまりに演劇的だった
日本では最後まで客席静かだろうな・・ https://t.co/y7qtsleKTV— 相馬千秋 (@somachiaki) July 10, 2023
演説が始まってからは「聞いとれんわ」って感じで出ていく人が続出。出はしないけど席を立って逡巡している人、「最悪」って感じのことを呟いている人、でも同意する部分があったのか口笛も吹かれたり、あるいはブーイングが起こったりと、劇場内が相当ざわめきたち。
中には演説中のファシストに物申す的に舞台に上がってきた人もいて(スタッフによって舞台から降りるよう促されておりましたが)、これは…札幌っ子な自分がこれまで劇場で観たことのない光景だ…!
で
一体これどうなるの?と思ったところで突如終了。と同時に、ものすごい拍手が起こったのでした。
あの瞬間は、何だか凄かった。
観客は演説が始まるとともに観客から聴衆に変容して、演説に対してそれぞれの意思表示をしたのだけど、なんだろう、あの最後の拍手は、なんかこう、何かを改めて確認できたことへの拍手だったのかなあ。
いろんな人の反応や表情が興味深かったです。
札幌で本作が上演されたとしたら、多分ですけど、観客は「聞くに耐えないけど、これはこおいう演劇作品だし…」と黙って聞いていたと思うんだよなー。
でもその場合、同じようにこの作品が終演したときの拍手は、昨夜の観客のような表情を伴うものではないと思う。
いやどうかなー、あまりにひどかったら、控えめなブーイングくらいは起こるかな。わからん。
なんというか、劇場内にとどまらない、暗黙の前提がある(と思わされている)社会システムの中で、それに従って傍観してしまうことと、そこを突き破って意思表示なりアクションを起こすことの違いというか、なんかすごく大事なことを昨夜の瞬間に目撃したような気がするなあ。
(ちなみに、政治家の応援演説にヤジを飛ばして道警に強制排除された事例も思い出してしまった。札幌…)
※フランクフルト滞在のブログはこちらにまとまってます。
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