再々々演となるELEVEN NINES『12人の怒れる男』をかでるで。

※私が観たのは17日で、この日の配役(2号と5号はダブルキャスト)は

陪審員長:菊池拓帆(EGG)/ 陪審員2号:梅原たくと / 陪審員3号:納谷真大 / 陪審員4号:河野真也(オクラホマ)/ 陪審員5号:戸澤亮 / 陪審員6号:山野久治(風の色)/ 陪審員7号:横尾寛 / 陪審員8号:久保隆徳(富良野GROUP)/ 陪審員9号:山田マサル(パインソー)/ 陪審員10号:箕輪直人 / 陪審員11号:泉陽二(札幌座)/ 陪審員12号:明逸人

です。

4、8、9、12号は初演からずっと同じ方が演じていて、残りは今回もガラリと変わりました。

※ちなみに2014年5月の初演時のブログはこちら、翌2015年の演劇シーズンで早速再演したときのブログはこちら、そして2018年の演劇シーズンで再々演されたときのブログはこちら

まず先に

今回の『12人〜』は、何か、しみじみ良かったです。もちろん観ている自分も変わったし、配役の妙も大きいと思うけど、陪審員それぞれがちゃんと見えてきて、だからこそ最後の3番の葛藤は胸にくるものがありました。

これまでどうしても腑に落ちなかった10号の差別的演説→無罪という流れも、今回はストンと入ってきましたし。

今まで見逃していた、9号の老人が眼鏡のことに気付く瞬間の、本当に一瞬の、でもとても大きな内面の動きを目撃できたことも感無量でした。

ちなみに

事前に今回も3、4、8、9、12号はきっと変わらないだろうなと予測していて、他の陪審員で自分的に配役が気になっていたのは7号(野球のナイターを見に行きたい男)と10号でした。

7号は初演が江田由紀浩さん、再演が有門正太郎さんで、それぞれ人間らしさを感じることができたのだけど、何といっても強烈に嫌な印象を残した(褒め言葉です)のが2018年の櫻井保一さんで。

当時のブログにも「空虚な若者の「合理的疑問だよ」は、言葉の信頼がぐらつく感じで、ちょっと、まさに「今」って感じだった」と書きましたが、自分の中では当時の「言葉の意味を無効化してしまうような」政府の国会答弁などと絶妙にリンクして、暗澹たる気持ちになったのでした。

で、今回の横尾寛さんで再び人間らしさが戻った感。というか、めちゃ「普通の」自分の隣にいるおじさん的良さと悪さがあったな、と。

「普通の」というのは、マイルドに排他的で仲間意識が強くて、自分の領域に部外者が入ることを基本的に嫌がる性質、的な。おじさん側に属している人からは「気のいい人」と言われるタイプの人です。

そして10号は今回箕輪さん。差別意識が抜き難くあるけれど、積み重ねられる他者の議論によって、彼の理性が差別感情を上回っていったことがわかったというか。

今まで自分は10号について、差別的演説→周囲からの拒絶(→それに対する困惑・価値観の揺れ→)無罪という流れを思い描いていて、()部分が自分には見えづらいと捉えていたのだけど、

今回思ったのは

差別的演説→周囲からの拒絶→それに対する困惑→他者のやり取りを離れたところで冷静に聴く→元々の理性が現れる→無罪。みたいな。

つまり今回、後天的に頭に染み付いた偏見や差別意識がある7号や10号を観ていて、私の心が動いたのは、

他者の真剣な議論や対話は、そういった後天的な偏見や差別意識こそを無効化し、本来の理性を引き出す力がある。(かもしれない)

という発見でした。

(かもしれない)と書いてしまうのは、もし今の社会で二極化した立ち位置の人が同じように机を囲んだ場合に、本作で起こったような無効化が起きるのかどうか心許ないから。

言葉を尽くすこと、考え抜くことの力を信じたいけれど、1950年代に書かれた本作の理想は、いまだに理想の域を超えていないのかもしれない…という気持ちもある。

何はともあれ、少数派の8号の横に立つことを選んだ9号のような人が超重要だ、ということは痛感しました。

そして、中間の立場にいる人たちが根気強く、迷いながらも考えようとすることの大切さ。(そのことを実感させてくれた、立場が揺れ続けた陪審員たちに拍手。)

これも、自分の振る舞いとして現実社会にめちゃ還元できそうな発見だなあ。

配布物の中に入っていた冊子『calro』も、読み応えありました。

納谷さんと久保さんの対談も面白かったです。観劇後に読んでいる身として、ここで語られていることにとても納得した次第。

『12人〜』、4年後くらいにまた上演してほしいなー。

冒頭に流れる曲を聴いて、「ああ、またこの時間に戻ってきたな」という感慨を覚えたので、またあの曲を劇場で聴きたいです。

未来の本作からは、どんなことを発見できるかな。

(編)

 

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