森崎和江さんの本を二冊読みました。
『慶州は母の呼び声 わが原郷』と、『からゆきさん 異国に売られた少女たち』
彼女の名前を知ったのは、斎藤真理子さんと中村佑子さんへのこのインタビュー記事です。
森崎さんは1927年に日本の植民地支配化にあった朝鮮の大邱で生まれ、小学5年生で父の異動とともに慶州へ。そして大邱高等女学校に進学したのち、金泉女学校へ転校。福岡県立女子専門学校への進学を機に日本に来て、そのままそこで敗戦を迎えた方。
「私たちの生活がそのまま侵略」であるという立場から見た当時の様子が描かれていて、彼女のような立場から朝鮮を描いた読み物に触れたのが初めてのこともあり、読み入りました。
「書こうと心をきめたのは、ただただ、鬼の子ともいうべき日本人の子らを、人の子ゆえに否定せず守ってくれたオモニへの、ことばにならぬ想いによります」
北海道に生まれ育った身として、「和人の生活がそのまま侵略」であったし、困窮した和人の子ども(捨て子を含む)を養子として受け入れ育てたアイヌのことなども思うと、常に彼女の言葉が二重に返ってくる。
そして彼女の父親のように、朝鮮人に対して差別意識を持つことなく、「皇国臣民として戦争下に生きるほかに道のない」状況でありながらも、朝鮮人とお互いに承認し合える関係を見出したいと模索した日本人もいた。
「敗戦以来ずっと、いつの日かは訪問するにふさわしい日本人になっていたいと、そのことのために生きた」という、彼女のような贖罪意識を持った日本人もいたことを知れたことは良かった…。
『からゆきさん』も、森崎さんの視線を通して描かれる女性たちと背景(家父長的な中産階級の性道徳とは異なるおおらかな性の慣習、出稼ぎへの抵抗のなさなど)、そしてそれを悪用する側の人間や女性の性を国家が売り買いすることに対する憤りが伝わってきて、めちゃくちゃ彼女の視点は信頼できるなと。
それにしても
『慶州〜』の方でも一見人権的な措置に見える共学体制が、共兵体制への布石であったり、
『からゆきさん』で書かれていた、娼妓解放令からの公娼制再開であったり、
とにかく日本政府の中枢には昔も今も人権意識がない。
結局、特権意識と君主への忠義(よく言えばそうだけど、思考停止とも言えるような)が染み付いた武士(支配)階級による統治、みたいなことが今も続いているんじゃないのかなー。
そういう頭とはまるきり違う考え方を持つ人たち(女性やマイノリティ出自の人とか)が政権にどんどん入っていかないと、日本はホント変わらない気がします…。
あと当時の新聞では、からゆきさんのことを「密航婦」「海外醜業婦」などと呼んで糾弾することはあっても、誘拐業者や密航業者はほとんど裁かれない。もちろん彼女たちの性を買う側の客のことなど、話題にも上らない。
そもそも女性がお金を稼ぐ手段がほとんどなかった時代、かつ出稼ぎもそれを仲介する人なしには成立しなかった時代に、少女たちを騙した側が全く罪に問われないとは、これいかに。
でもこれって、今も女性の「売春」だけを問題視して、買う側の「買春」行為が見えなくされる新聞記事のあり方と同じですよね。(購読している毎日新聞でも「ルポ路上売春」という連載があるけれど、買う側のことが全く問題視されておらず、書き手は男性記者。)
結局、メディア側の意識(男性主体の組織)も江戸時代から全然変わってないんじゃないだろか。
先日、国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会による「ミッション終了ステートメント」を読んだのですが、明らかな課題として女性 LGBTQI+、障害者、部落、先住民族と少数民族、技能実習生と移民労働者、労働者と労働組合、子どもと若者が挙がっていて、
「リスクにさらされた集団に対する不平等と差別の構造を完全に解体することが緊急に必要です。ハラスメントを永続化させている問題の多い社会規範とジェンダー差別には、全面的に取り組むべき」と書かれており。
ホントそうだなと思いました。
話戻り、
森崎さんの本は『まっくら: 女坑夫からの聞き書き』や『草の上の舞踏―日本と朝鮮半島の間に生きて』、『非所有の所有 性と階級覚え書』、『闘いとエロス』あたりも読んでみたい。
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