中村一成『ウトロ ここで生き、ここで死ぬ』、読了。
私がウトロ地区のことを知ったのは、昨年の放火事件がきっかけなのですが…(今年8月に求刑どおり懲役4年の判決が出た際のNHKニュースはこちら)
※本書は今年4月の発行。
植民地時代の朝鮮半島出身者への扱いの酷さは言うまでもなく、毎回どんよりとするのは、戦後の在日朝鮮人に対する日本政府の切り捨て政策です。
なかなか歴史が覚えられなくて何度か読んでいる、自分的教科書『在日朝鮮人ってどんなひと?』から、以前の自分のブログに書いたことをちょっとコピペ。
敗戦後、日本政府は講和条約が結ばれるまで旧植民地の人々を日本国籍のままにするとしておきながら、1947年に外国人登録令を出し、朝鮮人は日本国籍のまま外国人とみなされるおかしな立場に置かれたそうで。
外国人登録には国籍欄があり、当時まだ朝鮮半島に国がなかったので(韓国と北朝鮮ができたのは48年)、国籍欄に「朝鮮」と書いたのが、そのまま「外国人登録上の記号」として残っているのが「朝鮮籍」なのだそうな。
そして52年のサンフランシスコ講和条約で、日本政府は旧植民地出身者の日本国籍喪失を宣言。無国籍状態の人たちが国内にたくさん発生することになったのですね。で、65年に日韓条約が結ばれた後は、韓国籍を取る人が増えたそうです。
で、ウトロ地区というのは、ウトロ平和祈念館の歴史ページから引用すると、
1940年から日本政府が推進した「京都飛行場建設」に集められた在日朝鮮人労働者たちの飯場跡に形成された集落です。
当時在日朝鮮人たちは徴用や貧困から逃れるために飛行場建設の過酷な労働に従事し、やがて日本の敗戦により工事が中断されると、その場に使い捨てのように放置されました。
ここから、戦後も「外国籍」を理由に社会保障から排除し、国内の朝鮮人が日本社会で生きる展望を徹底的につぶしていく一方(&謝罪と補償の対象である在日朝鮮人を国外追放するための帰国事業)の日本政府と、国に倣って住民福祉まるきり無視の宇治市、かつ日本社会からの差別という、読んでいて暗澹たる気持ちになる道が続き。
あ、一つ、そうなんだなあと思ったのは、
京友禅や西陣織に代表される京都の和装繊維産業に、多くの在日朝鮮人が経営者・労働者として就労してきた、という事実です。(安田昌史氏による論文も参考にどうぞ)
上のリンク先論文でも以下のように指摘されているのですが
しかし、京都府や京都市が編纂した西陣織の歴史に関する資料や京都の繊維産業に関する研究では、日本人の経営者・労働者について論じられることはあっても、在日朝鮮人について言及されることは、ほとんどなかった。
着物好きな自分も全然知らなかったもんな…。今だったら外国人技能実習生の存在とかもそうだけど、国内のものづくりの現場で特定の担い手を「見えなくする」ってのは、なんなんだ。
もう一つ、朝鮮戦争時に特需で沸いた日本で、生きるためにくず鉄を売っていた在日の男性が「あの鉄が祖国に降るミサイルになったのか」と後から苦悩するエピソード。
あと朝鮮戦争時に国境線が戦況によって変わることで翻弄された、その付近の出身の人たちの話とか、後に北朝鮮になった地域の出身の人が停戦後の韓国社会で味わった苦しみとか、(最近読んだのはラッパーMOMENT JOONによる自伝的小説「三代 兵役、逃亡、夢」)
プラス帰国事業のこととか、
今後もう少しいろいろ読んでいきたい。
最後に、あとがきのところにあった
歴史を知るとは、過去と対話し、他者と共に生きる明日を目指す営為に他ならないが、彼ら歴史改竄主義者にとって「歴史」とは、気に食わぬ者を蔑み、黙らせ、他者なき世界で自己陶酔に浸る道具に過ぎない。
という記述にも激しくうなずきました。プラス、日本は(国内外での)加害の歴史にもきちんと耐える知性を養っていかないといけないと思うなあ。
あとはー
すごく素朴に、自分がそういう境遇に置かれたとしたらと少しでも想像できたら、発する言葉が変わってくるはずなのに…と日々思ったりします。
いつかウトロ平和祈念館にも行きたいな。
取り留めのない感じになってしまいましたが、ひとまずこの辺で。
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