ぷらすのと☆えれき『沼部、陸へ上がる』をシアターZOOで。
脚本が飛ぶ劇場の泊さんで、飛ぶ劇場の作品はなかなか観れないもので(自分が初めて観たのは2013年の札幌公演で、9年も経ってるの驚き)、自分的代わりにいそいそと出向いたのでした。
で、本作。
水生生物の採取観察を趣味にしている男3人。グループ名は「沼部」。偶然新種のイモリを発見してしまったことからテレビに出演したり地域のちょっとした人気者に。それから10年、40代になった彼らのもとに、当時を取材したいという男が現れる。仲間、恋、嫉妬、その男の取材で当時を振り返るうち、過去の事件が炙り出されてくる。10年前、何が起こったのか起こらなかったのか。両生類はなぜ陸地を目指したのか…。
「ここじゃない、違う場所へ行きたい」という渇望に応える成功欲と恋愛欲は誰にでもあるものだけど、自分が今作で特に考えてしまったのは、その欲にスイッチを入れる「他者の無邪気な煽り」で。
本当はたいしたことじゃないのに、無邪気に煽られた結果、自分の中で火がついてしまうというか。
特に恋愛に不慣れな(あるいは恋愛に大きな幻想を抱いている)海内が、ラムちゃん本人の社交辞令的言葉と、それを無邪気に煽る赤星&小沢の言動によって、端から見ると「ちょっと気持ち悪くなっちゃってる」人になる様は、
私自身、実際にそういう気持ち悪さをちょっと自分に向けられて怖い思いをしたこともあれば、自分がそういう気持ち悪い人になってしまったこともある身として、観ていて「容赦ないな…」と思ったのでした。
(ただ後者は、「ここじゃない、違う場所へ行きたい」という渇望のために自分を動かすエンジンとして、気持ち悪い思いをさせた相手に申し訳なく思いつつ、かつ自分もずいぶん痛い思いをしつつ、結果として予想もしなかった違う場所へはたどり着けたので、まあ、ガソリン的役割としてよかったなとは思う)
で、
「無邪気な煽り」についてです。
劇中、びっくりするくらい不意に刺さった一言があって、それは「もっと上の世界を見てみたかったな」的な一言なのですが、なぜ自分にあんな刺さり方をしたのか謎なくらい、本当に突然胸がギュッと痛かったのですね。
台詞そのものを見れば、(失礼な物言いかもしれないけど)成功を夢見てふるい落とされた人たちの言葉としてはよく見かける類の言葉なのに、なぜあんなに刺さってきたのか。
いやホントに謎で。
で、前半に書いた色恋系でおかしくなっちゃった海内についてあれこれ考えていたときに、いやしかし「無邪気な煽りをした赤星と小沢は無傷でいいのか?」みたいなことを考えていたら、
実際彼らも、成功欲の面では世間に無邪気に煽られ、新種のイモリの発見という事実以上の虚構の大波に乗ってしまい、もちろんそれは幻想なので突如波は消え、無残に落ちて心理的(かつ社会的)傷を負うという災いを被りながらの「もっと上の世界を見てみたかったな」発言で。
そう思ったときに、突如、20年くらい前に自分がした無邪気な煽りと、それにまつわることが、沼の底から浮上するがごとく思い出され、
私はこのときのあれから、「無邪気に煽ったお前が無傷でいいはずがない」と刺されたのでは…と思い当たり、呆然としてしまった。
だって、そんなことって、ありますかね…?
しかしさらに始末が悪いのは、そう思い至っても、なお、その「無邪気な煽り」に罪の意識を抱けるか?と問われると、正直、難しい。
(ただそれは、自分の性格的な欠陥のせいかもしれません。謙遜表現ではなく、自分にはあるタイプの感情がまるっと抜け落ちていると思うので。)
とはいえ
大前提として誰もが持つであろう元々の渇望があって、無邪気な煽りはただそれを煽る風でしかないし、人によって煽られる人もいれば、煽られない人もいる。
例えば本作でいえば、ラムちゃんの書いた「かわいい」という言葉に対して「安易にそういうことを書くなよ」と思う人もいれば、「え、このぐらい全然普通じゃん…」と思う人もいるでしょう。
じゃあ、「煽られたあなたが悪いよね」で済む話なのかと言われれば、正直そう思う自分と、果たしてそれでいいのだろうかと思う自分もいる。
煽った側は、無傷でいいのだろうか?そうやって他者がうっかり燃え盛って転落しても、自己責任ですよね、はありなのか?
いやー、どうかな。うーん…。わからん…
自分に関して言えば、先に書いたように因果応報できっちり同じような体験をし、どんなときに自分が煽られやすくなるのかもわかったし、煽る行為もしたくないので、なるべく人に関わらないような生き方をするという安住の地を発見した感はあるのですが。
あ
ちなみにここで書いている「煽り」は、悪意や差別的な感情を煽る類の煽りではなく(そういう煽りは昨今きちんと罰せられる方向に進んでいますよね)、
本作で描かれた、成功欲や恋愛欲に絡んだ煽りのことに限定して書いています。
そして泊さん曰く
昔、自分がやってしまった、封印したい過去がふいに今眼前に現れたら…という恐ろしさを描いてみたいというのが最初にありました。『沼部、陸に上がる』は。 https://t.co/kdpm4OPaQT
— 泊篤志 (@tmr_atc) November 5, 2022
ということなのですが、
煽った側の自分からすると「封印したい」レベルのものではなく、本当に忘れてしまうレベルのあまりに無邪気な煽りとその顛末、みたいなことで、
でも向こうにとっては、全然違うレベルのことなのかもしれないな。
そんなことを考えていると、これ以上誰かを傷つけることのないようにマジ他者と関わらないよう静かに生きてひっそり死にたい…と思うのでした。
私にとっての静やかな安らぎの境地…。いやホント。
と、ここまで書いてはたと気づいたのですけど、初めて観た『大砲の家族』でも、ブログに
「何だか本作を見た後は、家族も含めて「他者」という存在が、人間に課せられたどうしようもない足かせのように感じられる」
「たった1人から始められること、かつそこには現在しかないことの開放感があった」と書いていて
私は泊さん作品を観るたびに、「他者と関わらないように一人で生きる」ってことを考えている…!!!となって笑ったのでした。
というか、自分が普段から考えていることに寄せているのだろうな。はははー
あ、全然余談ですが、
数日前に干潟で沈んで亡くなるという描写に出会って、干潟や沼の危険性みたいなことを偶然調べていたので、本作の冒頭はもう少し泥に足がつかっている感が身体の動きにほしいと思いました。
そうしたら、沼に沈んでいくことも、もっとストンと入ってきたかも。
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