劇団た組『ドードーが落下する』@クリエイティブスタジオ

中学の時に統合失調症と診断されて以来、薬を飲んでそのことを隠してきた芸人の夏目と、イベント制作会社に勤める信也を中心に、彼らの知人グループの3年間の断片が描かれる本作。

芸人として披露する話芸でも生活費を稼ぐためのバイト先でも、うまくできずに「間違えてしまう」夏目が、薬代を捻出できずに薬を飲まなくなって、結果奇行に走っていくのだけど

「価値のない自分は、社会から見えないほうがいいんですよ」と夏目が口走る時の、信也の言う「そんな風に言わないでくださいよ…」の抱える複雑さが胸にくる。

その直前、仲間の一人が夏目の部屋で痩せ細って死んだ子猫の処理をしなくてはならなくなって、精神的に堪えていたりするように

また、別の仲間は「彼に振り回されて、自分が疲弊してしまうのは違うでしょ」と、深く関わらないことを選択するように

何かしら問題を抱えている人から距離を置いてしまうことは、自分を守るために必要だったりもするし、夏目の「実は価値が無いものは見えない方が世間はすごく良くなるんですよ」という言葉はそこを突いているのだし。

でも…

…でも…

という逡巡が生まれることも、また事実だと思う。そんなとき、人は「それは違う!」じゃなくて、やっぱり、

「そんな風に言わないでくださいよ…」

としか、言えないんじゃないかなあ。

このやり取りの前に、夏目と信也はちょっとした強い言葉のやり取りをかわすのだけど、そこもハッとしました。

間違えてしまう自分は、やっぱり隠したい。そこを正直にさらすのはすごく勇気がいることで、自分もその恐怖はいまだに手放せずにいるので、夏目の言うことはよくわかる。

し、

同時に、「そこを正直に打ちあければ、同じように悩む人の励みになるかもしれないし、Youtubeで稼げるかもしれないし」と言ってしまう信也の(ある意味)強者だから言えてしまう正しさ、みたいなものも自分にあるんですね。

(本人的には良心から発せられる)上から目線の傲慢な物言いは、本当に気をつけていないと、うっかりやってしまう。

あそこで自分の良心(と思ってたふるまい)を否定された信也だからこそ、「そんな風に言わないでくださいよ…」のシーンはグッときたなあ。

それはそれとして、

端で見てると「信也、惚れるわ…」とか思うんだけど、あれ実際に信也みたいなタイプと恋愛関係になると、常に自分が正しいと思ってる感じの相手が横にいることのウザさが勝ってくるんですよね。

信也、そんなんだとまた誰かと付き合ってもうまくいかんぞ!と思ったりもしました。

話戻り

どうやったって自分のできる範囲でしか何かと関わることはできないし、そんな立場だから強い言い方はできないし、逡巡を放棄した人や当の苦しんでる側からすると、どんなこともきれいごとにしか聞こえないのかもしれないけど、

それでもやっぱり、「自分は価値がない」とか「自分は社会から見えないほうがいい」というような言葉をそのまま受け入れられる人が多数になるとは思えない。

いろんな矛盾を心に抱えつつも、そんなふうに言わないでください、と絞り出しながら、どうにかしていくのかなあ。

(編)

 

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