ずっとマイリストに入りっぱなしになっていた、イ・チャンドン監督『ペパーミント・キャンディー』もようやく。
1999年から始まる冒頭、自殺を図るキム・ヨンホという男性の、そこに至る20年が少しずつ巻き戻されていく本作。
過去に遡っても、自分的には冒頭の決断にスッキリするくらいマッッッッッッッッッタク好きになれない男性の、「そうならざるを得なかった、彼を決定的に変えた」出来事が起こった19年前(1980年)まで遡ったとき
自分が受け入れ難かったキム・ヨンホは彼の元々の姿ではなく、「壊れてしまった」キム・ヨンホであり、1980年には壊れる前の純朴なキム・ヨンホがいて、そして彼の経験した悲惨な出来事を目の当たりに。
私がマッッッッッッッッッタク好きになれなかった理由の一つは、韓国が民主化運動に揺れた1987年にキム・ヨンホは警察で、学生を拷問する側だったから。(しかし彼が職業に警察を選んだ理由だって、最後まで映画を見てしまうとその選択の背景がわかって悲しい…。)
そして、1980年は光州事件が起きた年であり、純朴だったキム・ヨンホは兵役中に弾圧する側として光州事件に遭遇し、そこで悲劇が起きてしまう。
映画は最後、キム・ヨンホが初恋の人と出会う1979年に遡ります。彼が死の直前に「戻りたい」と切望した、1979年。
見終わった後、とてもじゃないけど言葉が出てこなかったなあ…。
今この作品を観ると、世界各地で現在起こっている侵略、弾圧、紛争の場に「今まさにいる」無数のキム・ヨンホを思ってしまう。
軍隊という特殊な社会で徹底的に歪められ、死と隣り合わせの戦場で人間性を剥ぎ取られる兵士が精神に負い、その人生を狂わされてしまう、とてつもない亀裂のような傷。
そう考えると、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」という憲法第9条には
日本国民の誰もキム・ヨンホにはしない。という意味もあるのだな…。
軍隊の必要のない、武器の必要のない、世界というのは可能なのだろうか…
イ・チャンドン監督の作品はこれまで『バーニング』だけ見たことがあったのですが、本作で一気にファンになりました。『オアシス』も今度見てみよう。
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