この2日間で一気に読んだ二冊から
まずはハン・ガン『少年が来る』
上のリンク先(韓国書籍専門のオンライン書店)から紹介文を引用します。
光州事件から約三十五年。あのとき、生を閉じた者の身に何が起きたのか。
生き残った者は、あれからどうやって生きてきたのか。
未来を奪われた者は何を思い、子どもを失った母親はどんな生を余儀なくされたのか。
三十年以上の月日を経て、初めて見えてくるものがあるーー。
丹念な取材のもと、死者と生き残った者の声にならない声を丁寧に掬いとった衝撃作。
もの凄い一冊です。
『タクシー運転手 約束は海を越えて』で、自分が初めて触れた光州事件。その細部、そこに居合わせた人たちの死と、生き残った人の声に、読んでいて何度胸を突かれるような思いをしたことか…。うう
そして本書は、人間が持つ良心と残忍さについての切実な問いでもある。
興味深かったのは「群衆」についての以下の記述。
群衆の道徳性を左右する決定的な要因が何なのかはまだ明らかになっていない。(略)ある群衆は商店での略奪や殺人、強姦をためらわず、ある群衆は個人であればたどり着き難いはずの利他性と勇気を獲得する。後者の個々人は、特別に崇高だったというよりも人間が根本的に備えている崇高さが群衆の力を借りて発現されたものであり、前者の個々人が特別に野蛮だったのではなく、人間の根源的な野蛮さが群衆の力を借りて極大化されたものだと筆者は語っている。
そうして、軍に立ち向かい激しい拷問を受けた男性が語る、
私たちは気高いのだという錯覚の中で生きているだけで、いつでもどうでもいいもの、虫、獣、膿と粘液の塊に変わることができるのですか?
という言葉。
私は『1987、ある闘いの真実』を見たときに、「軍事独裁政権による国民への暴力のようなことがないと、そういった強い「怒り」というものは生まれず、民「主」という意識にもつながっていかないのかもしれないなあ」と書いたけど、
国家によって国民が無慈悲に殺されることの悲しみがあまりにも大きすぎて、そこで払われる犠牲と人々に残る傷があまりにも大きすぎて、もうそんなことは言えない…。
国家による国民への暴力は絶対ない方がいいに決まってるし、そんなことでもないと民「主」にはならないんだと言ってしまうのは、激しい怠慢で傲慢なことだと思いました。
『少年が来る』、『タクシー運転手〜』や『1987〜』を観た人にはぜひ読んでほしいです。ものすごく大事な一冊です、いやホント。
それにしても、群衆の道徳性についての上の部分、興味深いなあ。途中で止まっている『民衆暴力』も、また再開しないとな。
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