二度目のチャレンジ、Inua Ellams『Barber Shop Chronicles』。
ナイジェリアからの移民である詩人・劇作家のInua Ellamsは、男性であること、黒人の男性であること、アフリカ人の男性であること、そして21世紀のイギリスで生きる移民であることには、どんな意味があるのか?という問いから、本作に着手。
2009年からアクラ(ガーナ)、ラゴス(ナイジェリア)、カンパラ(ウガンダ)、ハラレ(ジンバブエ)、ヨハネスブルク(南アフリカ)の各都市に1週間ほど滞在してインタビューをする中で、男性たちにとって床屋がシェルターのような役割を担っていると感じたそうです。
そこで出会った人たちのエピソードを元に書かれた本作。
舞台は、2009年のチャンピオンズ・リーグ準決勝、チェルシーvsバルセロナ戦が行われる日。各都市の床屋にいつものように男性たちが集まり、悲喜こもごもな会話が繰り広げられます。
ロンドンの舞台は、南東部ペッカム(元々移民が多く暮らす地域で、昨今はジェントフリーケーションでオシャレスポットになってるそうな)にある床屋で、そこに集まる人たちの背景はアフリカの各都市の床屋に出てくる人たちと少しずつつながっているところも面白い。
250以上!の民族が存在するナイジェリアの、三大民族(ハウサ、ヨルバ、イボ)をネタにしたジョーク(カンパラの床屋では、これのウガンダ版ジョークが披露されていた)とか、各国の歴史や政治に関する話題など、随所で調べながらの観劇。これができるのは、配信の良いところ。
ヨハネスブルクの床屋では、マンデラが大統領に就任して掲げた「民族融和」に対して、異なる受け止め方をする高齢世代の二人の会話が印象的でした。子ども時代に白人に自分を蔑称で呼ばせることでお金をもらっていた貧困家庭出身の男性は、マンデラの言う「赦し」が耐えられないし、真実和解委員会(TRC)も茶番だと言い捨て、自分たちにお金を払えよ!と。
南アフリカ社会が抱えるものも大きすぎるな…。
※あとTRCについて検索した時に見つけた、この考察も興味深かったです。TRCでは女性も証言したけれど、そのほとんどは男性家族の被害についての証言で、自身に対する人権侵害についての証言はほとんどなかったそうです。それも踏まえて、TRCとその聴衆が、女性の物語ではなく、男性の物語を望んだという考察がされています。
父と子のすれ違いや、世代間の物事の受け止め方に対するギャップ(例えば、アフロ・ビートの創始者として知られるフェラ・クティに対する評価が老人と若者で異なってたり)、ペッカムの床屋で語られるピジン英語に対する誇りなど
いろいろいろいろ挟みつつ、
でも全体を貫いているのは、家族の、国の、歴史(過去)に対する「赦し」の難しさや、未来を見つめて前に進むことの難しさ、そこに生まれる葛藤で。
ペッカムの床屋のオーナーが、最後に母国を去ったことに触れ「私たちのリーダーは、父は、私たちを失敗するように導いてしまったし、自分たちはここ(イギリス)では孤児なんだ」と語る姿が切ない。
でも、同時に彼が、それまで各地で披露されてきたジョークのロンドン版をお客さんに披露しようとしたところで、本作は終わり。
どこにいようとも、どんな葛藤があろうとも、常にジョークを開発して笑いながら会話し続けようとする人たちの姿が、余韻としてブワーッとやってきてグッときた…。
本作も素晴らしかったけれど、じゃあ、アフリカで、あるいはペッカムで、女性にとってのシェルター的場所はどこなんだろう?同じく美容室がそういう役割を担っているのかな?TRCのところでも女性の声が残されていないことを知ったけれども、『Barber Shop Chronicles』の女性版も見てみたいなと思いました。
ちなみに日本の場合だと、今でも床屋が情報交換の場として有効なのかしら。高齢世代にとってはそうかもしれないけれど、今だとどちらかというと個人がやってるカフェとかが、そういう役割を担っているのかな。
日本社会における、人が自分らしくいられて、あらゆることが話されるシェルター的居場所とはどこぞや。
TO OV cafeとかは、床屋ばりの情報集積具合だと思ったりしますがどうでしょう。案外、札幌の文化芸術界隈の人たちのシェルター的場所になってるのかもしれませんねえ。TO OV cafe。
街中生活に戻ったら、コーヒー飲みに行こう。
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