読んだ本と読んでいる本。
溝口彰子『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』(2015年発行)
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昨年くらいから、ツイッターの広告とかで目にしたときにチラリと読むくらいだったBL。なんとなく一定のパターンがあるんだなーと思っていたところに、本書のことを知り、早速。
BL史として、第1期・創成期(1961-1978)、第2期・JUNE期(1978-1990)、第3期・BL期(1990-)と分けていて、それぞれに定型がありつつ、その定型が進化していると。
※本書では2000年代になって増加した、ホモフォビア(同性愛嫌悪)や異性愛規範やミソジニー(女性嫌悪)を克服する手がかりを与えてくれるBLを、「進化形BL」と呼んでいる。
著者の言う

BLキャラが現実のゲイをそのまま反映したものではなく、BLにおけるレイプが現実のレイプを容認、奨励することを意図していないのはもとより明らかだが、そういう「ファンタジー・ポルノ」だから、と開き直るのではなく、現実世界にも接続した表象であることを認識したうえで、いわば「現実への責任を負った表象」として進化すべきだし、実際、進化してきた−−

という言葉に共感。
「フィクションに現実の倫理をあてはめること」に対して、自分的には、昨年あたりから「必ずしもそうすべきことだとは思わないけれど、でも”今”それをその形で発表することを、全面的に受け入れていいのだろうか…」と迷う場面が結構増えていて、

現実世界にも接続した表象であることを認識したうえで、いわば「現実への責任を負った表象」として進化すべきだし、

の部分は、やっぱりそうだよねえ、としみじみ。全部が全部そうすれという気持ちではないけれど、進化した書き方があったっていい。というか、自分はそれを見たい。
あと結構興味深い考察として、夫とのセックスを頭の中でBLに置き換えて行なっていた女性の話に触れて

男になって男に挿入されている、というファンタジーのもとに彼女が夫とおこなった性行為を、100パーセント異性愛だと定義づけられるだろうか?

とか、揺さぶってきていいなああああ。あとそれに続く「彼女のペニス」という一連の解説は、愉快(爽快)で面白かったっす。私は全然コアなファンじゃないから、愛好家のようにホニャララを振り回す楽しさには追いついてないのだけど、解放感あふれる分析が清々しい。
そしてですね、

BL愛好家女性たちが男性キャラをとおして/として、自由自在にラブとセックスとライフを様々に「生きて」きたからこそ、BL以外の一般世間にあふれる既存の「女性性」と「女性役割」を当然とせず、解体し吟味しようという視点が生まれた。

という、これです!ここが一番目から鱗だった点。これについては後述します。
で、
2015年発行の本書で「進化形BL」として紹介されていた一つに、中村明日美子さんの『同級生』シリーズがありまして。
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もう一気読み。なんだこの名作は…!(電子コミックって、ホイホイ買ってしまってうっかり散財しますね…)
『BL進化論』の中で、『同級生』シリーズについての話の最後に、

人はそれぞれ、自分にとって「自然」に感じられる、自分を歪めずにすむ生き方をするのがベストだ。それが社会の多勢とは違っても「自分だけの」「しあわせ」を求めるしかないし、何かを選べば何かを捨てることになるのは同性愛者であってもなくても、人生のあらゆる局面ですべての人が直面するシンプルな事実だ。

と書かれていて、自分も、多分2016年以降、そおいうことをしてきたんだなーと共感。より自分の感じ方に即した言い方をするなら、「何かを捨てる」のではなく、「世間一般的な関わりとは違っても、何かに対して自分たちだけのあり方を模索する」ってことかな。

この流れでさらに読み始めたのが『BLが開く扉 変容するアジアのセクシュアリティとジェンダー』(2019年発行)
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2017年に開催された「クィアな変容・変貌・変化 -アジアにおけるボーイズラブメディアに関する国際シンポジウム」での発表を柱にしているので、読み進めるのに結構時間のかかる一冊。でもめっちゃ興味深いです。
例えば中国の研究者は、「オメガバース」(これも電子コミックの広告で知ったのですけど、こんな設定が流行ってるのですねえ)ものの有名な中国作品と、「専門性と高い志をもった中国人女性が、根深いミソジニーを抱えた社会で自らの人生の舵を取るため、親密な関係を手放したり、独身を貫いたり、結婚を遅らせたり、母親となることを拒否したりといった選択をしている」こととを結びつけて考察。
「女性たちが心の再奥に抱えた欲望や欲求を語れるようにしてくれる」ことが、BL(中国では耽美)の絶大な人気の理由と分析します。
確かに、
自分も『同級生』シリーズを読んでるとき、「子どもを産むこと、産まないこと、産めないこと」に対して、外に対する気持ちの結果としてではなく、自分(と相手)だけのこととして考えられることがデフォルトになる日が来るのかな、とはふと思ったんですよね。
そのための気持ちのトレーニングとして、進化形のBLは、いいな。
あるジャンルに関する分析・考察って、面白いですね。
(編)

 

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