のんびり滞在したあいちトリエンナーレ、最後はとても楽しみにしていた劇団アルテミス+ヘット・ザウデライク・トネール『ものがたりのものがたり』を。
オランダ南部を拠点に、結成以来30年にわたり国内外で広く活動を続ける青少年劇団。「子供向け」ではなく、「子供の目線から世界を捉える」姿勢で創作される作品群は、大人にとっても痛快かつシュールな刺激に満ち溢れ、あらゆる世代が集う観客席はいつも笑いに包まれている。
今回、満を持してアジア初上陸するのは、第58回ヴェネチア・ビエンナーレ演劇部門で銀獅子賞を受賞したばかりの最新作だ。芸術監督のイェツェ・バーテラーンが繰り出す、不条理で不謹慎、ラジカルかつ遊戯的な演出は、演劇のステレオタイプはもちろん、規範的な鑑賞態度をも軽やかに裏切り、あらゆる世代の観客の想像力を奔放に解き放っていく。
パフォーミング・アーツ部門キュレーターの相馬さんがこの作品をオランダで最初に見たとき、客席の多くを子供達が占めていた、とトークで話されていたような気がするのですが
劇団の芸術監督を務める演出家のイェツェ・バーテラーン曰く「子供向け」とは「子供の想像力をもって演劇をつくる」ということで、
いろんな種類の演劇のハイブリッドとも言える本作について「子供達は演劇に対する考えが固定していないから、そこに向けて問いを投げかけられる」と話していたのが、素敵だなーと。
それで、もちろん作品自体もとても面白かったのですが、このアフタートークで印象的なことがあったのです。
終演後、トークが始まる前の時間に、自分の席の後ろの方で男性がスタッフの方?に話している声が聞こえてきたのですが
本番の途中で巨大ロナウド紙人形の口から、水が客席の方に向かって噴射される演出がありまして、どうやら男性は、その水がかかって服が濡れてしまったことを話していたようでした。
で
トーク最後に、進行役の相馬さんが客席からの質問を募った時、その男性が「水が観客の方に噴射される演出があったが、いつもそのような演出をされているのか。自分はその水がかかってしまって、ジャケットは乾いたけれど、帽子の方はシミに?なりそうで(←この辺の言葉は正確に覚えてない)、クリーニング代はどこに請求したらよいのか」と質問したのです。
それに対してバーテラーンさんは「私が預かって、責任を持って帽子をクリーニングし、返しますね」と返答。さらに、「私は子供達に、劇場は(安全地帯ではなく)リスクのある場所なのだということも伝えたいと思っています。リスクを怖がらずに、サバイブすることを子供達に伝えることも、大切なことだと思います」と語り。
その返答を受けて、男性は「では、これも(多分、帽子のシミのことかな?)アートだと思うことにします」みたいな返事をして、トークが終了したのでした。
おそらく、男性がこの場でバーテラーンさんに直接自身のモヤモヤをぶつけていなかったなら、彼の言葉は彼自身にとっても、スタッフにとっても、それを側で聞いていた私にとっても、単なるクレームでしかなかったと思うのです。
でも、公の場で直接アーティストに投げかけてくれたおかげで、アーティストの言葉を引き出し、そのほかの観客もその言葉を聞くことができ、男性もバーテラーンさんとのやり取りを経て当初とは違う気持ちで出来事を受け止めることができた。
では、
同じことが、SNSの文字コミュニケーションを通してなされていたとしたら?私は、多分、男性の最後の返事はちょっと違うものになるのでは、と考えています。
なぜかというと、あの時、あの会場でバーテラーンさんが返答した時に一緒に伝わってきた彼の誠実さみたいなものが、文字だと伝わらないのではと思うからです。
つまり
不快になったことをはじめとするクレームは、一方的に発せられて終わるだけならクレーム以上のものにはならず、
たとえマイナスの受け止め方であったとしても、公の場でアーティストも交えて対話がなされるなら、周りの聞き手にも何かしらの考えを促す一要素になる。
そして、
つくり手が本当に誠実に創作に向き合っているなら、つくり手の真摯な言葉は、感情的になりがちな受け手側の言葉を冷静に保ってくれる効果もある(気がする)。
さらに
もしかしたら対話を経て、マイナスオンリーだった受け止め方に少し変化も生じるかもしれない。それはその人にとってもよいことです。
私たちに圧倒的に足りていないのは、作品を通して、アーティストも交えて対話する機会なんじゃないのかなあ。
なんてことを思った、貴重なアーティスト・トークでありました。あの場にいれて良かったな。
今回のあいちトリエンナーレは、本 当 に、美術展示でも公演でもいろんなことを考え、さまざまな事象に対する自身の視点をアップデートすることができ、素晴らしく有意義な芸術祭体験でした。
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(助成金不交付問題の行方は気になるけど…なんとか覆ってほしいものであります…。)
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