札幌演劇シーズン2019 -夏参加作品、弦巻楽団#33『ワンダー☆ランド』を見てきました。
なんと初演は16年前ですって。
今回のキャストで唯一、初演にも出演されている、長流3平(3ペェ団新☆さっぽろ)さんが良い味出しまくりでした。
自分は最近あまり札幌の演劇を見れてないので、正確なところはわからないけれど、多分、今の演劇シーンで引っ張りだこなんだろうなーと思われる旬の役者さんたちと、癖のあるナイスなおじさん役者と、フレッシュな新人さんとが、良い感じでごっちゃになりつつ、
随所で各自の必殺技(深浦佑太さんのてへぺろ顔とか)を出しつつ、マッドマックス的に有無を言わさず2時間エンジンを全開に爆走する作品。
そして、そんな嵐の到来前の静けさを思わせる冒頭、
分娩室で母親のお腹の中に赤ん坊の白鳥ゼロ(佐久間泉真さん)が立てこもっていた時の、父親(村上義典さん)が穏やかに語りかける、残酷だけどひどく正直な、あの一連の言葉!!!
あそこだけ丸ごと引用してここに紹介したいぐらい、甘い期待を抱かせない、人を諦めさせる力のある語り口で、「言葉を聞く」体験としてすごく良かった…。
あと
最後、カズマ(井上嵩之さん)がミキ(鈴山あおいさん)のペンダント時計に20年前のメッセージを言い、「チェリー」(でしたっけ?)が流れるシーンには、その後の爆発への予想と相まって、グッときてしまったなあ。
井上さんて、あんな格好良い役者さんでしたっけ?(←褒めてます)
もひとつ、ずっと頭の中にあった金髪の運命の女性を、ラーメンの麺を頭からかぶった妻に見る、という展開も最高でした。あそこは本当に痛快というか、青い鳥症候群の蹴散らし方として、超一本取られました。
で
ここから全く整理できてない感想に突入するのですが。(ここからが長文です)『ワンダー☆ランド』は、鑑賞後の反芻も結構カオスになってしまう、面白い作品ですよねー。
ということで、まずは。
先述したカズマが、恋人ミキのペンダント時計に愛のメッセージを吹き込む20年前のその日、目の前でミキを北朝鮮の工作員に拉致されるんですね。
思い起こすと初演前年の2002年は、小泉首相(当時)が訪朝して、5人の拉致被害者が帰国した年で。
その後、拉致問題はなんの進展もなく16年が過ぎたのか…と、突如目の前で光を当てられた歴史的事実を思い返しつつ、今これをどうやって客席から見れば良いのか、居心地の悪さを感じたのも事実。
傍観者でいることに居直って、ほんのひと時胸を痛め、また忘れてしまえばいいのでしょうかねえ。
でも、こうやって普段圧倒的に忘れていることを、時折きちんと思い起こさせるだけでも意味あることだと思うから、心地よさだけじゃなく、居心地の悪さも同時に感じさせる演劇であってほしいなーとは思うなあ。
そして
これまた登場人物の一人である、世界を終わらせたい衝動に満ち、有人ミサイルの墜落によって町ごと爆破したい男性(遠藤洋平さん)は、
16年後の今や「ガソリンをまきに行く」だの「職員を射殺する」というような脅迫メールを送る、無数の匿名クレーマーに姿を変え、
風刺対象の現首相は、7年も首相の座に居座り続けているという…
はあ…。
あとあれですね、「自分のことしか愛せない」ことに悩む人たちが出てきましたけど、本来人間って、そおいう生き物だと思うんですよね。
(そこが大前提だからこそ、自身の危険を顧みずに他者を救うとか、無条件に他者を愛することのできる人間が存在することに胸を打たれるわけで。)
これまでは社会的慣習やシステムの問題で、他者を愛する(愛していると思い込む)必要があったからそうしてきただけで、(だからこそ、「自分しか愛せない」事実を正直に体現することが社会へのアンチテーゼにもなったのだけど)
結婚や家族のシステムが必須じゃなくなり、性欲に関してはマッチングアプリが、心理的つながりの面ではシェア・カルチャー的拡張家族が代替してくれる現代において、「自分のことしか愛せない」ことは悩むべきことなのだろうか。
むしろ、自分のことしか愛せなくてもストレスなく生きていけるようになった世の中で、恋愛や家族をどう各個人が位置付けていくのか。「こうすべき」という社会的慣習やシステムから自由になると同時に、一人一人が全てを自分で(相手と)決めていかないといけなくなった時、どんな葛藤や衝突、結果が導かれるのかなー。
実際他者の出す答えには興味ないのだけれど、自分がこの先、どう折り合いをつけていくのかには興味がある。
あと
「恋する自分を経験してみたかった」という、学内ヒエラルキー下位に位置する京本先生(岩波岳洋さん)につけこんで、恋愛をチラつかせて2000万をだまし取った女子高生(相馬日奈さん)を、その暴露後に京本が撲殺するシーン。
これが現実に起こったことだとして、デート商法でも違法性を証明しづらいそうですから、これ、間違いなく京本が泣き寝入りするコースなのでは…と思うのですが、じゃあ、あの女子高生をあのままのさばらせていて許せるのか?と。
で、今回はフィクションですから、法が無力なら私刑だ!撲殺当然!みたいな感じで、「もっと金属バット振り下ろしとこー!」とばかりに大層スッキリしたわけですが。
現実世界は、そうもいかない。
…はずなのですけど、
今やネットリンチと言いますか、罪の大小に関わらず間違いを犯した人は、義憤に駆られた人たちに社会的抹殺レベルの制裁を受けるという…。
いやー、現実世界は法の制裁に任せておいた方がいいんじゃないのかしら。他愛もない小さな間違いなんて、知らんぷりしたっていいと思うし、現状の法律が追いついてないような事態なら、法の整備に力を注ぐ方が未来の人たちにとってもプラスでしょうし。
私刑はフィクションの中だけにとどめておこうよ…。
本作のキーワードである「世界は素晴らしい。嘘だけど。」は、自分の言葉に直すと、「素晴らしい世界と素晴らしくない世界が表裏一体の」世界は、素晴らしい(のか?)。なのですけど
素晴らしさと同時に、理不尽なことにも粘り強く対処していく忍耐力とタフさが必要とされるのが本来なのに、フィクションだからこその快楽だった「爆発してしまえ!」とか、「撲殺してしまえ!」といった直情的な思考を現実世界に持ち込む人が増えてきているのって、どういった慣習や社会システムが衰退したんでしょうか…。
今はもう、「そんな子どもじみた考えが通用するのは、フィクションの中だけなんだよ」ってことを、残酷に正直に現実が伝えてくれるのを願うしかない。
と同時に、そういった「世界を終わらせたい」くらい追い込まれていく人たちが、追い込まれなくても済むように、社会的な価値観の変換が進んでいってほしいし、教育も変えていってほしいし、弱者をフォローする社会システムをしっかり整備してほしい。
でも、どうかなー、権力を行使する側が直情的な短絡思考の持ち主だったら、現実もフィクション的になっちゃうのかもしれないですよね…。
じゃあ、そんな現実とフィクションが反転しそうな時代において、フィクション側はどんな物語で応答するんだろう?
なんてことを思ったあたりで、突然終わる。
あ、本作中で男女がチークを一瞬踊るシーンで流れた曲は、誰のなんて曲でしょう???気になる!
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