札幌演劇シーズン2019-冬参加作品、劇団千年王國『贋作者』を見てきました。
2002年に初演後、2009年に劇団10周年を記念して再演。その年のTGR 札幌劇場祭で札幌舞台芸術賞演劇大賞を受賞し、2011年には韓国「光州平和演劇祭」で初の海外公演を果たしたという、千年王國の代表作とな。
以前、舞台美術家の高村由紀子さんを取材した時に、手がけたものの中で印象に残っているセットとして挙げられていた本作。
生で見ると、5台の引き枠の配置や動かすスピードによって、ダイナミックに空間が変わっていく様が素晴らしい。
上の写真は2009年時のもので、河鍋鴈次郎を立川佳吾さん(2019年はリンノスケさん)、河鍋清一郎を梅津学さん(2019年は寺田剛史さん)、ブローカーのミツコを村上水緒さん(2019年は飛世早哉香さん)、吉野を榮田佳子さん(2019年は坂本祐似さん。坂本さんは2009年上演時は日本初の女性記者を目指す安藤信枝を演じ、2019年は熊木志保さん)というラインナップ。
2009年のものは見ていないけれど、役者さんのことは知っているので、2019年のものとまた異なる感触だったろうなと想像はできる。
ので
人が変わると全く異なる息吹を与えられる演劇作品って、すごいなあ。としみじみ…。や、普段どちらかというと新作か、再演でも役者が同じ、というパターンに触れる機会が多いので、今このタイミングでやっとしみじみしました。
私はあまり古典戯曲の上演を見たことがないのだけど、そおいうのを集中的に見るようになったら、「異なる息吹」の妙をもっと感じることができるのかもしれないなー。
演劇ってのはすごいわ…
ということはさておき、2019年の『贋作者』は、河鍋清一郎を演じた寺田剛史さん(飛ぶ劇場、フライヤー左の方)を見るだけでも行く価値があるような…ってぐらいの佇まいぶりで。(天神山の滞在者紹介を読んで、そり遊びするの〜ってほっこりするぐらいにはファンになりました。飛ぶ劇場を見に北九州、行きたい。)
彼が登場するまで、ちょっと他の役者さんのセリフを聞き取れないことが多くて、雰囲気だけを楽しむ浮いたモードになっていたのですけど、寺田さんが出てきて話し始めた途端、自分がまたしっかり劇世界に着地したような感じに。セリフが聞き取れるって大事…。
と言っても、セリフだけの要因じゃなく、役柄とか、それこそ佇まいとか、その辺も関係しているような気もするのですが。
そんな前半を折り返し、
『贋作者』は後半、贋作、ニセモノについて、グッと踏み込んだ展開を見せてきます。価値観がガラリと変わるたび、それらを自らに上書きしてきた日本人だけど、「本物」にこだわって自らに疑いの目を向ければ、そこには確かに絶望しかない気もする。
もう一つ、明治時代に国家の政策として、主に教育やメディアを通して推進されてきた男女間の望ましい役割(その底にある女性差別)、に対する闘いもフッと物語に浮上します。
私は最後、日本初の女性記者を目指す安藤信枝が記事を放り出した時に、思わず「放り出すんかい!」って心の中で突っ込んでしまったのですが。
2002年や2009年なら、エンタメ的エンディングとして自分自身気に留めなかったと思うけど、今、これだけそのトピック(男女格差)を連日目にする2019年のエンディングとして、エンタメのセオリーがあるのだとしても、個人的には「放り出しちゃあかんでしょ」って思うなあ。
鴈次郎が素晴らしい贋作を仕上げた。自分の名前で出せば、名作としてたちまち世に名を売ることができる。でも、鴈治郎はあくまで「偽物にはニセモンの本当があらあ!」と贋作者でいることを選ぶ。そして、周りの女性も、仲間も、その心意気に打たれ、祝福する。
それはいいのですけど。
その鴈治郎の信念に対して、日本初の女性記者になるという安藤信枝の信念はどこへ…。
そうやって男性の信念を陰に表に支える役割を(自分の欲望や野心を犠牲にして意識的に、あるいは無意識に)演じてきた女性が再生産される様を、今またハッピーに描くことに対して、自分はちょっと疑問を感じたなあ。(あと男女関係なく、人の信念と信念がぶつかり合ってこそでしょうって個人的には思う。)
や、自分の好きな人を応援したいという思いは尊いのだけど、現代ですら女性の前に立ちはだかる壁に対する信枝の信念がそんな扱いって、いやいやいやちょっと待てと…考えすぎ?
と、ここまで書きつつ、別にだからこの作品が楽しくなかったとかそおいうことではないですよ。作品自体は楽しく鑑賞しましたし、良い時間でした。寺田さんという役者さんのことも知れたし。
あくまで最後の女性の描き方に対して思ったことがあり、それに対して他の人はどんなことを考えるのかな?って意見交換がしたいなあ、と。
そうそう、冒頭に「人が変わると全く異なる息吹を与えられる演劇作品って、すごいなあ」と書きましたが、誰かの価値観で描かれた戯曲が繰り返し上演されることで、その価値観から抜け出せないってことも、あるんじゃないかなあ。
ってことも同時に思ったり。
思いがけず長くなってしまいましたが、徒然と書いたままに終わる。
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