紀元前5世紀頃に古代ギリシアで悲劇ができたとき、その主題には歴史や神話が用いられ、人間に関わる価値観の根拠が探求されたそうな。
そこから現代まで、2,000年以上にも渡って、演劇という営みが無数の人によって紡がれてきたのだなあ、と思うと、何だかすごい。
という話はさておき、
劇団千年王國の、火の起源の神話をベースにした新作『火盗人』を見てまいりました。

神話の世界と現代、という何千年もの時間の隔たりを、軽やかに行き来する本作。
燃え盛る炎を纏い踊る「火守鳥」(ダンサーの鈴木明倫さん)の妖しい美しさは軽く鳥肌が立つ程で、人が火に取り憑かれる一瞬の狂気を、観客も自身の中に垣間見たのではないでしょうか。
自然が持つ生命力は力強く、ときに官能的で。
そして、はるか昔から繰り返されている生と死の循環…そういったことに比べ、巨大な力(エネルギー)を前に揺らぐ人間の弱さは実に対照的。
ケーナ・チャランゴ・ギターやジャンベ、ディジュリドゥなど土着的な楽器による演奏や、ダンサーによる研ぎすまされた踊りも本作品の特徴ですが、とってつけた感じではなく、作品の根っこの部分ときちんと結び付いており。
それらが放つ熱が渾然一体となったあの空間には、「生きること」そのものの快楽が満ちていました。
そしてそれは、私たちの身体の奥底に眠っている本能的な感覚を、一瞬呼び起こすのです。
本作品は、人間とエネルギーにまつわる話でもあります。
二日前に東京で、東日本大震災と福島の原発事故がテーマの『光のない。』という作品を見たばかりだったのですが、これがもう全てを吸い込み、抜け出せない、ブラックホールのような作品で。
現在の巨大なエネルギー事情の前では、どうすることが正しいのかすぱっと割り切れないこともあるのでしょうけど、やっぱり自分は本能的な感覚を大事にしたい。
劇中、マツヤニはたくさんの壁画や言葉を残します。何かを残す、というのが人間ならではの行為だとしたら、負の遺産ではないものを残したいものです。
本公演、残りは本日(20日)19:30〜と
21日(水)14:00〜/19:00〜
です。詳細はこちらからどうぞ。
鈴木明倫さんの踊り(火守鳥の他、イカヅチも)、ヤバいですよ。
かなり必見。いやホント。
(編)

 

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