石川慶監督『ある男』@U-NEXT

たまに来る再トライアルキャンペーンで再開したのだけど、何一つ観ないまま一カ月が終了しそうだったので、慌ててチョイスした一本。

話自体もとても面白かったのだけど、観ていてぼんやり思ったのは、「目の前の人が自分のことをきちんと見てくれていない」と感じるときに自分の中で損なわれていくものがある、ということで。

親子関係でも恋愛関係でも仕事の関係でも、あるいは対社会でも。自分という存在が蔑ろにされずに、自分のままに認められていると感じられるときは、自己肯定感や安心感、信頼感へとつながっていくのだけど、何か表面的なもの(見た目や功績、属性など)だけを見られていると感じるとき、少しずつ削られていくものがある。

谷口大祐を名乗った彼は、目の前の里枝が自分という人間をきちんと見つめて愛してくれたから、「自分」を生き直すことができたのだなあ。

反面、弁護士の城戸は社会から否応なく属性(在日)で見られ、隠していても「自分」より属性を意識せざるを得ないマイクロアグレッションに日々遭遇する。妻が見ている自分は妻に見合う存在であった自分であって、そこからずれ始めると「いつものあなた」に戻ることを求められる。(最終的には浮気されるし…)

今の自分にベタベタとついたものを全てまっさらにして、相手の知らない誰かの服を着て目の前に立ったとしたら、相手は「自分」を見てくれるだろうか?

最後のバーのシーンからは、そんなことを思いました。

目の前の人をまっさらなまま見つめることに難しさを感じるときもあるけれど、きちんと見るってことを大事にしたいなあ。

続いて

NT Live『プライマ・フェイシィ』@TOHOシネマズ・すすきの

これはずっと観たいと思っていて、上映権利最終日に札幌でも1日限りの上映決定というニュースに小躍りしていたのでした。

※あらすじは上記のリンク先から引用。

積極的にキャリアを重ねる弁護士テッサは、依頼がくる仕事をどんどんこなし、時にはレイプ事件の加害者の弁護も扱ってきた。しかし、ある日、自らも性的暴行の被害者になってしまい、自身の訴えを起こしたことから、それまで気づきもしなかった法律で守れるものの壁にぶち当たることになる。

男性目線(優位)で作られた法制度が、性的暴行を受けた女性の実情に合っておらず機能していない点は日本も100%そうで、それがこんな視点で語られうるとは…。

物語の結末として、判決はもちろん現行の法律にのっとった判決になるのだけど、そこで感じるのは無力感ではなく、女性はもちろんのこと、同様に法に携わるアダムのような真に尊敬できる男性との連帯であったことも素晴らしかったです。

なんたる名作…!

本作の場合は直前まで二人とも「これは恋愛関係に発展するかも」という期待感があり、すでに二度セックスを楽しんだ後だったにも関わらず、夜中に具合の悪くなったテッサが「やめて」と言っているのに、彼女の両腕を片手で押さえつけ、もう片方の手で彼女の口も塞いで強引にことを進めた男性が訴えられるのですが。

日本の教育現場でも性的合意についてしつこいくらい教える必要があると思うし、AVは男性のファンタジーであって、あれが女性を正しく表象していると思うのは本当に間違っている…。

「No means no」であって、相手の同意がないまま相手が拒絶しているのに性行為をすること(不同意性交)は犯罪であると頭に叩き込み、お互いが満足する行為なり関係なりを全大人が持てるようになればいいのに。

日本も2023年に不同意性交等罪が創設されたことは大きな進歩だけど、それを成立させる構成要件は性的暴行を受けた女性の実情に合っていないと、直近の判決を見てしみじみ感じるもんな…。(判決文を読むのもホントきつかった…。)

法制度を変えるのには無茶苦茶時間がかかるから、マジ男性側が意識をアップデートするのが一番手っ取り早いし、それはすぐにその人と誰かの幸福につながるものなので、全女性のために一つよろしくお願いします。アップデート!

(編)

 

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