夕方からは小泉明郎『縛られたプロメテウス』を。
ギリシア悲劇に詳しくないので、どんな話なんだろう?と思って調べてみると、
プロメテウスは未来を予見する能力を持った巨人神で、人間に火を与えたことがゼウスによって罪に問われる。カウカソスの岩山に鉄の鎖でつながれ、鷲に肝臓を食べられるが、不死身のため傷は再生し、ゼウスの許しが出るまで永遠に苦しみ続ける、というお話。
演出ノートには
アイスキュロスが描くプロメテウスは未来を予見する能力をもって、肉体的な苦しみ、そして絶対的な権力に抵抗します。新たなる「人間」が創造されている現在、私たちはどのような未来を予見し、何を守り、何に抵抗し、どのような「人間」になりたいのか。これらの問いに対する答えを探したいと考えています。
と書かれていて、本作ではコラボレーターとして、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者が登場するんですね。
ALSは、体を動かす運動神経が老化して、徐々に動かなくなっていく難病。ALSが進行すると、手足のみならず声を出すことも難しくなり、最終的には人工呼吸器の装着が必要になるそうです。ただし、意識や五感、知能の働きは正常のままで。(眼球の動きも、比較的正常に機能を保つことができるらしい)
本作は前半のVR体験と、後半の映像体験の構成が肝なのですが、やっぱり自らの体に閉じ込められる感覚はいかほどかと思うし、テクノロジーがそれをどこまで解放できるのか、そして、どんなテクノロジーをもってしても代替できないものはなんなのか、考えてしまったなあ。
作品中に度々登場する、「人は誰しも、有限な時間の中で生きている」という言葉。
は、ここ数年本当に実感していて、自分も小さな爆弾を抱えているし、時間の使い方や何を大事にするかは、かなり意識して働き方や暮らし方を変えちゃったけど。
作家の問いに自分なりに答えるなら、どんな状況に陥っても自分が守りたいのは想像力で、それを諦めることに対しては抵抗したい。
自分がいつか何らかの困難に縛られる日が来るまで、いろいろなものを見て読んでインプットを続けて、縛られてしまったその時から、「創る」ってことに挑戦できたらよいな。
あと本作を見ていろいろ考えていた時に、美術展示で見たクラウディア・マルティネス・ガライの映像作品を思い出していました。
風景に似せた陶器の表面をカメラが移動し、そこに作家が人工物のリサーチをしている過程でたどり着いた、1200年以上前に犠牲となった実在の男性のモノローグが重なっていく作品で
「犠牲となった彼の人生を陶器の肖像として表し、一人の人間としての彼を映像で描き出すことで、彼を未来に生き永らえさせることにした」と解説にあって。
『縛られたプロメテウス』での体験が、何か、見ず知らずの他者の「意識」を自分の中にインストールするような感覚だったからかもしれません。
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