前回の続きで、
11/28(土):National Theatre『Death of England: Delroy』
11/4(水)に初日を迎えることになっていたNational Theatreの『Death of England: Delroy』。ところが、その4日前の土曜日に再度のロックダウン(11/5〜)が発表されたことから、初日かつ千秋楽となってしまう1回こっきりの上演を急遽撮影することに。
公演自体は2021年春に延期となったのですが、記録動画が24時間限定で無料配信されていたのでした。
上の動画は予告編ではないのだけど、短い時間で新作を撮影するための準備を進めたことや、座席やステージを消毒する様子などが収められていて興味深いので、ぜひ見てみてください。
で
『Death of England: Delroy』。(確か)ジャマイカをルーツに持つDerloyは、ロンドンで執行官として働く男性で、白人の妻(親友の妹)を持ち、妻は出産間近。Brexitでは離脱に投票。母親はNHSの介護士で、Delroyは母親から黒人女性をずっと勧められてきた、という役どころ。
Delroyは自分をイギリス人と思っている(た)けれど、「ウィンドラッシュ問題」が起こり、BLM運動の盛り上がりを見るにつけ、「お前は本当のイギリス人ではない」と暗に言われているように感じて疲弊します。
さらには、父(差別的な人だったっぽい)を亡くして悲嘆にくれる親友から「いくらお前がイギリス人になろうとしても絶対なれない」と言われたり、
※上記の部分で、レビューを読むと、親友Michaelとその父に関するエピソードは本作の前に発表された作品で描かれていて、本作はその続編にあたるそうです。自分が本作から掴めなかった部分だけど、白人労働者階級と黒人労働者階級の間の何か、みたいなことも根底にあることがわかって、なるほどなるほど。
極め付けに、妻の出産に立ち会うため病院に向かう途中で不当逮捕され、有罪判決を受けるという憂き目に。
DelroyはBLM運動には相反する感情を持った人物で、なのだけど、「イギリス人として」家も買い真面目に働いてきた自分が、突然理不尽に有罪判決を受けて無職になったのは「自分が黒人だから」で。
この辺のセリフが、ちょっと頭がおっつかなくて、追いきれなかったのがもどかしい…。(後から読んだレビューによると、Delroyはコックニー訛りで半分はパトワ語が混じっていたそうな。聞き取りが難しかった理由はこれか〜)
なのだけど。
退院した妻から娘の写真が送られてきて、それを見たとき、
娘の顔に「自分譲りのカリビアンな鼻」や、(どのパーツかは忘れたけど)「妻の(差別的な)父」の面影を見て、やりどころのなかった怒りが昇華されていくというか。
自分を取り巻くBLMの言説も自分が経験した黒人差別も、実体を持たないふわふわとしたものだけど、今、自分の目の前には、人種や世代がミックスされた素晴らしく愛らしい娘の顔がある。
この愛らしい娘の顔こそが、彼が「大事にすべき」確かな「事実」じゃないかと。
その「事実」に気づくラストに、胸を打たれた次第。うう…涙。
ちなみに、本当は別の役者さんがDelroyを演じるはずだったのだけど、本番2週間前に入院(コロナではない)。Michael Balogunが急遽代役で、90分延々と話し続ける一人芝居を演じ切ったのですねー。
いやー、すごいすごい。しかもそんな感じで4日後に初日だー!というタイミングで、ロックダウンが決定するとは…。
不屈のNT。マジリスペクト。
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