アグニエシュカ・ホランド監督『人間の境界』をキノで。
ベラルーシ政府がEUに混乱を引き起こす狙いで大勢の難民をポーランド国境へと移送し、ポーランド政府は2021年9月、EU諸国への亡命を求める人々で溢れるベラルーシとの国境付近に非常事態宣言を発令。ベラルーシから移送される難民を受け入れ拒否し、強制的に送り返すー
というニュースに当時リアルタイムで触れていた身ですが、ニュース記事を読むという行為と、生身の人間が翻弄される様を描いた映画を見るという行為がもたらす想像力の違いを痛感。
映画というものがこの世界にあって良かったと、心底思える時間でした。
本作は「シリア人難民家族、支援活動家、国境警備隊の青年など複数の視点から描き出す群像劇」で、いろいろな立場の人たちを描いている故に、観た人がそこに自分に近しい立場を見出せるであろうところも素晴らしい点で。
例えば、精神科医(だったかな?)で支援活動に身を投じるユリヤの義姉は、信条的にはリベラルだけど、家族がいる身として、非常事態宣言下で捕まるリスクを冒してまで難民を助けるための車を貸すことは拒否するのですね。彼女の判断もよくわかるわけです。
(ちなみにそのシーンのやり取りで、ユリヤが「人を助けることは違法ではない」と言うのも響いた…。)
道端に座り込む難民をスマホで撮影して笑いの種にする愚かな若者もいれば、その難民に食べ物を差し出す人もいる。
そんな中、自分的に特に印象的だったのは、無慈悲に(組織の一員としてそうせざるを得ない部分もあるのだけど)難民をベラルーシ側へ送り返す国境警備隊の青年で。
彼には出産間近の妻がいるのだけど、難民の中にもお腹の大きな女性がおり、それでも彼は強制的に送り返すしかない。
その様子が撮影され、SNS上に出回る動画を見た彼の妻は非常に動揺し、国境警備隊を辞めることを提案したりもする。
さらには国境近くにある改装中の家には、難民が勝手に寝泊りしたり(水の流れない)トイレを使った痕跡があったりする。
ある意味彼は、公私共に最も影響を受けている一人なのだと思うのだけど、最後の方で検問で止めたトラックの荷台奥に難民家族を見つけていながら、それを見逃してあげたときには、こちらの涙腺も崩壊。
あの一点で、彼は彼自身を救ったのだと思うなあ。
活動家の一人が支援活動に加わりたてのユリヤに言う「自己評価を高めたいだけのリベラルだと思っていた」は自分に刺さり、
ロシアによるウクライナ侵攻でポーランドに避難してくるウクライナ人を国境で迎え入れるシーンで、その任務についていた青年に活動家が言う「ベラルーシ国境でもそのくらい優しかったら良かったのにね」は痛烈な皮肉だなと。
なのだけど、
難民を匿った家の子どもたちが難民の若者と一緒に歌うYoussoupha – Mourir Mille Foisには
「心臓の音は共鳴する」という歌詞があり、
「心臓の音は共鳴する」のだから、私たちは本来どんな相手であれ、手を差し伸べることができるはずなのだと、
そう思った瞬間に泣けてしまった。
なんたる傑作…涙。見れて良かったです。
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