行ってきました、教文短編演劇祭2019。
まずは一作目、マイペース『ラスト・ショウ』。
芸歴16年目のお笑いコンビ『どさんこキング』の若村と春田は、才能の限界を認めつつあった。 出番前の楽屋。 春田が解散を告げる。 戸惑う若村。 出囃子が鳴る。 得意とするシチュエーションコント漫才が始まる。 なにがなんだかわからないけどこれはたぶん、最後の舞台。
大ホールだからかどうかわからないけど、役者さんのセリフを聞き取れないことが多くて、若干雰囲気だけ味わうモードに。
マイペースに限らず審査員の講評で頻出していたのが「そうしなければならない必然性」と「人物背景」なのですが、確かに20分の中に、それらをどこまで盛り込めるかが工夫のしどころですよね。なるほどなー。
関係を終わらせたい相手をあの手この手で引き留めようとする行為の中には、愛着とか、執着とか、決心の揺らぎとか、すがってしまうことの滑稽さや弱さとか、全てが混ざって存在しているものだと思うのだけど、それらの片鱗がちょっと見えるだけでもグッときてしまう。
引き止める側だった芸人を演じたサイトータツミチさんは、強引に自分勝手にグイグイ愛情を押し付けて引き止める、その背景にある「弱さ」が漏れ出たら、間違いなく観客の琴線に触れるようなタイプの役者さんのような気がするので、60分くらいの作品にして、もっと小さな劇場で、この作品を改めて見てみたいと思いました。
お次は二作目、Gフランケン『ドッキリ・タイムズ』。
芸人のサザナミは後輩芸人とインタビューを受けている。サザナミは去年108回もドッキリにかけられたらしい。インタビューを終えて喫茶店を出ると、サザナミのもとに色々な災難が降りかかる。ふとサザナミはインタビューで出てきた話題が現実に起こっていることに気づく――。さあ、楽しい「ショウ」の始まりだ。
これも、役者さんのセリフを聞き取れないことが多くて、もどかしい思いをしつつ。でも、最後のいやーな感じはダントツ。
だがしかしですね、なんだろう、批評性は十分受け取りつつ、
悪い部分をそのまま露出させたところでブラックな「笑い」にはならないと思うし、多分そこに至る様々な事情が伴ってないと、その露出された愚かさの「愚かな所以」にこちらが考えを飛ばせないんですよね。
20分でも、もう少しサラリとサザナミの人間性(テレビ的においしいことをやる、本人が芸人の矜持だと思っていることから透けて見える、何か)を見せて、ライトにあのいやーなラストに持っていけたら、パンチ力あったと思うなあ。
三作目はMike堂『おそらく地球は消滅します。』。
20XX年、地球に小惑星が接近していた。 調査の結果、99.9%の確率で、地球に直撃すると予測された。その結果、おそらく地球は消滅する。
一人の男は考えた。 「最期くらい、本能の赴くまま生きてみたい。」男の考える本能、それは裸だった。 裸の男は、一人の女と出会う。 二人は最期の会話を交わしながら、人間としての生死について考える。
私が一票を入れたのはこちら。
後半、真っ裸で生きて女性から「動物」呼ばわりされていたギター男(あらすじにある男とは別人物)が突如女性に対して見せた暴力性が、ギター男が結局理性という責任から逃げるために動物的な振る舞いをしている人間でしかないことを露わにし、
女性が襲われたことに激昂した男がギター男をギターで殴打。とどめを刺す瞬間は舞台袖で行われており、観客はギターの壊れる音で殺害を察するのですが、そこから戻ってきた男が「あいつやっぱり理性があったよ」みたいな発言をするくだりが、自分的に一番テンション上がった場面でした。
あの暴力のシーンで、作品の空気が明らかに変わったもんな。
ただ
やっぱり真っ裸であるはずのギター男のお尻に紐が見えてしまっているのは、鴻上さんじゃないけど、そこは本当に真っ裸で行こうよ!という気持ちが。それによって、見る側の緊張感も全然違ってくるもんなー。
女性のパンツもね。そこは履かずに…これまた鴻上さんじゃないけど、せめてTバックとか…それかせめて観客から見えない角度で…
がっしりとしたガードル的なパンツが見えた瞬間、露出狂という設定じゃなかったんかーーーーーい!!!と思わず心の中で叫びました。うーん、惜しい…。
四作目は空宙空地『ショウアワセルフ』。
夫婦が椅子に座っている。イライラし始める男を女が諭す 「これから私たちのショウが始まるの」 。男と女それぞれが生まれてから成長し、出会い、そしてその後の人生が、ハイスピードで展開する。 気づいた頃にはもうショウは終わりにさしかかり…7本のスポットライトで見せるショウと言うにはあまりに慎ましやかな人生。
文句なしの良い作品で、観客票&審査員票共に最多の優勝作。さらに作・演出で出演もされた関戸哲也さんは、最優秀俳優賞も受賞。
鉄板のストーリーではあるけれど、セリフのディテール(私もペプシのくだりが好きだったなあ)や演出、そして、やっぱり話題になった投書とリンクする「七日間」に胸を打たれました。
(※ちなみに上のリンク先にある実際の夫婦の物語も、相当胸を打つ物語です。)
普遍的で、多くの人を感動させる素敵な作品であることを大前提に、自分が一票を入れる気にならなかったのは、この安定感のせいでもあるというか…。まあ、100%好みの問題ですよね、安定感自体が素晴らしいことですしね。
あとは、自分の今の興味関心として、作品の中で描かれる夫婦のあり方が固定観念的だったところ(女性は家で育児&パート、男性は外でモーレツに働く)も、実際その組み合わせが今でも多いのだとしても「やっぱりそう描いちゃうかー」という思いがどうしても頭をかすめてしまう。
とはいえ、本作が持つ最終的なメッセージ性みたいなものは、そんな男女の役割を超えたところにあり、うん、良い時間でした。
そういえば、帰りに目の前を歩いていた若い男子2人組が、本作の、紫色の照明になった場面の前後の二人の関係について話していて、片方は、「や、あれって飲んだ後にラブホとかに寄って、それで付き合い始めたんじゃない?」と。
で、もう片方の男子が「や、俺もラブホなのかなって思ったんだけど、二人が電気を消す時、紐で消してたじゃん?だから、どっちかの部屋に行ったってことなのかなって思ったんだけど、でも普通に部屋だったら紫の照明ってないよね?」みたいな。
そうなんですよ…!私も地味にそこが引っかかってて、ラブホで紐で消すような蛍光灯というシチュエーションってあるのかな?名古屋のディープなラブホの一室?とか思ってたのでした。
話に混じりたかった…
話戻り。
五作目は、星くずロンリネス『ヒーローシチョウ』。
農業が盛んな「島熊市」の市長は気弱な男。 就任後、初の夏祭り。 島熊のご当地ヒーロー「シマクマン」のショーを市民は楽しみに待っている。 「…え?俺が入るの?」突如、ヒーローになった気弱な市長は、自分で考えたゆるキャラの力を借りて街のPRができるのか?! 星くずロンリネスによる、まちのコミカルヒーローショウ!
上田さんの言葉操り能力(今度は驚きの回文!)が、また存分に発揮された本作。ただ、鴻上さんが指摘していたように、回文であることが必然的に迫ってくるような設定ではなかったかも。
最後の市長の挨拶については、「これが言いたかったんだねえ」と思いながら聞きましたし、「これがどうしても言いたい!」という、ダイレクトなメッセージとしての作品をつくらずにいられない時もあるわけで、そこは尊重しつつ。
でも、自分としては、やっぱりメッセージ的なものをセリフとして直接語らせるのではなく、間接的にその思いが観客に伝わるようなつくりの方が好きかな。
上田さんについては、教文の広報誌「楽」内の短編演劇祭告知ページにコメントをもらっており、それが以下になるのですが
去年の災害を経て感じた地域のつながりや街のパワーに、「やっぱり札幌が大好きだ」と強く思いました。そしてこの一年、札幌で芝居をする意味を考え続けました。ローカルでも面白いじゃなく、ローカルだから面白いを目指し、皆さんに楽しんでもらえる作品をつくります!応援よろしくお願いします!
人を目の前にすると口ベタになってしまって、無駄に高度な回文をつい口走ってしまう市長が、ひょんなことから実感した島熊市民のつながりやパワーを、やっぱり無駄に回文を連発しつつ必死にアピールしていく(聞いてる側からすると意味不明なんだけど、市長の街への愛だけはひしひしと伝わってくる…とか)みたいな内容だったとして、
太字部分みたいなこともきちんとエピソードとして盛り込まれた作品だったとしたら、この1年間の上田さんととても誠実に結びついた、かつ回文もよく活かされた、札幌市民的に選ばずにいられない作品になったかも。どうかな?
ということで
全作振り返ってみて思ったのですけど、短編演劇祭が毎回設けているテーマって、果たして必要なのかな?という思いも少し。
テーマに縛られず、その都度のつくり手の興味関心で短編作品を作ってもらった方が、完成度に寄与するような気がするのだけど、つくり手側からするとテーマがあった方がつくりやすいのかな?
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