劇団チョコレートケーキ『帰還不能点』を配信で。

上の宣伝動画にあるように、戦争をテーマにした作品を近年発表している劇団チョコレートケーキ。
を知ったのは、
昨年コロナで外出自粛の要請があった時期に、無料配信していた『遺産』を観たことがきっかけです。
その後の公演で配信もしていたのだけど、うっかり見逃し、今回は!と観たら、これがもう非常に面白かった…。
以下、劇団の作品紹介ページから。

1950年代、敗戦前の若手エリート官僚が久しぶりに集い久闊を叙す。
やがて酒が進むうちに話は二人の故人に収斂する。
一人は首相近衛文麿。
近衛の最大の失策、日中戦争長期化の経緯が語られる。
もう一人は外相松岡洋右。
アメリカの警戒レベルを引き上げた三国同盟締結の経緯が語られる。
更に語られる対米戦への「帰還不能点」南部仏印進駐。
大日本帝国を破滅させた文官たちの物語。

日中戦争や太平洋戦争って軍部の暴走というイメージを持っていたけど、本作を観ると意外とそうでもない。
むしろ、陸軍や海軍が日中戦争を早期終結させるために和平交渉を進言しているのに、首相や外相がイケイケドンドンみたいな感じで、相手がとても飲めない和平案を出して戦争を長期化させようとしたり。
そういう入り組んだ経緯で結局無茶なところへ突き進んでいくプロセスを観るのは、しんどさももちろんあるけれど、それ以上に面白さがありました。
(学校での歴史の授業は、年号を暗記させる代わりにこういう作品を見せればいいんじゃないか、とも思った。)
このインタビュー記事も必読な内容で

甘い見通しが外れてもなお「プランA」に固執し、専門的見地からの忠告を無視し、事実を目的に従属させ、追い詰められた果てに泥縄式に「プランB」に移っていく……。感染者は爆発的に増えないだろうという好都合な前提に基づくGoToキャンペーンや、遅きに失した年明けの緊急事態宣言は、まさに「変わっていない」の証左のようだった。

とか。
日本の敗戦を予測していた総力戦研究所の研究生たちは、敗戦後「あの状況で自分たちにできることなんて何もなかった」と自らを納得させて生活しているけれど、その中の2名だけはそうやって割り切ることができず、罪滅ぼしのような人生を送っていることが判明するのですね。
だけど、私も、単なる研究生が予測を元に内閣の考えを変えさせることなんてできなかったと思うわけです。自分が同じような状況に放り込まれたら、それはもう「あれは仕方なかった」と思うしかない、気がしていたから、
最後の展開も、あれはあくまで自身を納得させるプロセスの新しいバージョンだよね、と思ったけれど、
上のインタビュー記事で劇作家の古川氏が

(略)ほとんど権限もなかった彼らが葛藤する姿を描くことにこそ意味があると思っています。個々人の責任は、自分がどうあるべきだったか問い続けることでしか取りようがないし、今の時代を生きる私たちが自分になぞらえて教訓を得るにしても、そこにしか手がかりはない。遠い過去の話を敢えてこの時代に問う意味も、そこにあります。

と語っているのを読み
葛藤から逃げる人たちは「あの状況で自分たちにできることなんて何もなかった」と簡単に言って終わりにしてしまうけれど、それじゃダメなんだな…本当はどうすべきだったのかを自身に問い、それができなかった自分に葛藤し続けることにだって意味があるのか…と思い直した次第。
私はどうしても、「大きい歯車(システム)に組み込まれたら、個人にできることなんてあると思えない」と思ってしまうし、自分が抵抗できるような人間とも思えない(から、そういうシステムからできる限り外れていたい)のだけど、
こうやって自分の中に蓄積されていく物語の数々から、いざ何かに直面したときに「本当はどうすべきなのか」という知恵と勇気が(めっちゃひ弱な芽であることは予想できるけど)芽吹くことを祈るしかない。
古川氏、「次は沖縄戦についての作品を構想中」なのですって。次作も楽しみだなあ。
『帰還不能点』は3/21まで視聴できるので、ぜひ。詳細はこちらからどうぞ。
(編)
 

 

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